分子イメージングに関する研究

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現在,薬の 90% 以上はタンパク質を標的とするものであり,その中でも酵素は最も重要な創薬標的の1つとなっている.実際に,特定の酵素の活性の異常が病気の進行と関連する例が数多く報告されており,個々の酵素に関する理解は,病気の診断,薬の開発に直結する非常に重要なものであると言える.しかしながら,酵素を始めとするタンパク質の生体内の役割を理解するためには,その動的な機能を理解することが必要であり,これをタンパク質の構造のみによって予測することが困難であるという問題が存在することから,生体内に発現する数千種類を超える酵素に対する私たちの理解はいまだ不十分であり,その機能の理解を加速する研究手法の開発が望まれている.
ある特定の酵素の活性によって代謝され,蛍光特性の変化によってこれを検出する有機小分子蛍光プローブは,このようなタンパク質の動的な機能の理解を可能にする研究ツールとして,(1) 生物学研究,(2) 臨床診断,(3) 阻害剤開発,など,個々の病態関連タンパク質の機能を詳細に理解する研究に非常に有用であることが期待されている.私たちは,このような蛍光プローブ開発を通じて,新たな創薬標的タンパク質を見出すこと,その生体内での役割を理解すること,そして,それらに対する阻害剤を開発することを目指す創薬研究に取り組んでいる.

細胞内外の入力に応じて,酵素は遺伝子の発現とタンパク質の分解による【量】の調整のみならず,局在場所や活性といった【質】を変化させることでも機能を変調させることで,柔軟に細胞内のシステムを変化させ,細胞機能を実現している.我々は蛍光プローブの開発等により,独創的かつ実用性の高いアッセイ系の構築を進めることで,創薬研究を展開している.


最近の成果


  1. "Development of fluorogenic substrates for colorectal tumor-related neuropeptidases for activity-based diagnosis"  Norimichi Nagano, Yuki Ichihashi, Toru Komatsu, Hiroyuki Matsuzaki, Keisuke Hata, Toshiaki Watanabe, Yoshihiro Misawa, Misa Suzuki, Shingo Sakamoto, Yu Kagami, Ayumi Kashiro, Keiko Takeuchi, Yukihide Kanemitsu, Hiroki Ochiai, Rikiya Watanabe, Kazufumi Honda and Yasuteru Urano

    Chem. Sci.

    , 14, 4495-4499 (2023) doi:10.1039/D2SC07029D
    *Cover art
  2. "Development of a Fluorescent Probe Library Enabling Efficient Screening of Tumour-imaging Probes Based on Discovery of Biomarker Enzymatic Activities"  Yugo Kuriki, Takafusa Yoshioka, Mako Kamiya, Toru Komatsu, Hiroyuki Takamaru, Kyohhei Fujita, Hirohisa Iwaki, Aika Nanjo, Yuki Akagi, Kohei Takeshita, Haruaki Hino, Rumi Hino, Ryosuke Kojima, Tasuku Ueno, Kenjiro Hanaoka, Seiichiro Abe,Yutaka Saito, Jun Nakajima, and Yasuteru Urano

    Chem. Sci.

    , 13, 4474-4481 (2022) doi:10.1039/d1sc06889j
    *Cover art